2021/10/10 18:21

6-6 没後十年、創業六十年

 亡き先代稲垣忠右ェ門の意志を継ぎ、稲垣民夫社長は家族社員の結束をかため、漆器と観光を主軸に、年々事業の拡大充実をはかり、業界の発展に大きな貢献をつくしながら今日に至っている。創業者没後十年の間、...

2021/10/10 18:21

6-5 初秋に逝く

 前年の暮れも押し詰まったある日、キクエ夫人ととし子専務は、懇意の院長先生と柳一子総婦長から、忠右ェ門の体がかなり悪い状態にあることを知らされた。片足は一方の足の倍程も腫れあがっていた。脳血管に動...

2021/10/10 18:20

6-4 病床でキリコ会館の開設を見る

本橋さんご夫妻との伊豆箱根の旅行が、忠右ェ門にとっては最後の旅行となった。昭和五十三年の仕事始め式で、恒例の如く「ことしも社員一同で目標に向けて頑張ろう」と、手短に話した。毎年この日は、営業社員と...

2021/10/10 18:19

6-3 七十四歳の誕生日

 世の中にはいろいろな出会いがあるものだ。忠右ェ門夫妻と埼玉県川口市に住んでおられる本橋正義夫妻との奇縁もそのひとつである。今も仲睦まじく夫婦そろって健勝でいらっしゃる本橋正義ご夫妻が、昭和三十年...

2021/10/10 18:18

6-2 民夫社長を指名、会長となる

 五十二年一月五日午後から恒例の新年仕事始め式をおこなった。毎年この日に行う習わしとしていた。工場勤務の職人らは、暮れからこの日までが休日であった。八十名ほどの従業員の前で、新年の抱負を述べた。ボ...

2021/10/10 18:18

6章・逝去、子息らに夢を託して 6-1ボーリング場跡地を購入

車社会は奔流のごとく押し寄せていた。能登を訪れる観光客はうなぎのぼりに上がっていった。稲忠漆芸会館が輪島市塚田海岸に進出した四十六年には、輪島市の調べによると百五十万人の入込み観光客が来訪し、翌四...

2021/10/10 18:16

5-4 居眠り旦那と道路の稲忠さん

「ほんとうに、よく眠っていました。それもきちんと座りながらですよ」忠右ェ門を知る人から、よくそんな言葉を聞く。本人も生前、親しい人らに「わしは居眠り旦那とよばれているんだ」と笑って言っていた。漆器...

2021/10/10 18:14

5-3 塚田海岸に進出、稲忠漆芸会館開設

 昭和三十年代、奥能登観光幕開けの発端地となった名勝天然記念物・曽々木海岸地区にとってかわり、四十年代半ば頃から輪島の朝市が旅行者の人気の中心となってきた。朝市を見て輪島塗の工場見学に立ち寄りショ...

2021/10/10 18:13

5-2 カニ族のたまり場

 妻のキクエは始めのうちはあまり店に出なかった。かわりに長女のとし子が観光客の対応の中心となり、切り盛りをしてくれた。観光客の店は、若い女性がいなければ華やぎがなくてだめなものだ、と長女のとし子や...

2021/10/10 18:11

5章・漆器と観光の船出 5-1 観光時代の到来 

 漆器組合長になった頃から、忠右ェ門の場所まわりは遠のきがちになった。組合長という職責は精神的にも物理的にも、大きな負担がかかるものであった。自分の仕事は第二に考えなければ、とうてい成しえるもので...

2021/10/10 18:09

4-4 高松宮妃殿下を迎える

漆器組合長になって一年たったころ、忠右ェ門は忙殺に追われていた。日本国内ではなんとクレージー・キャッツの植木等が歌う『スーダラ節』が大ヒット中で無責任時代への突入であった。皮肉だなあ、俺がこんなに...

2021/10/10 18:07

4-3 組合再建への礎に

「家にいるより旅に出ているほうが長かった主人が、組合の理事長になったら、なにかといえば組合の仕事で、自分の家の仕事に影響が出て、ほんとうに困ってしまい、長女のとし子は『お母さん、このままでは稲忠は...

2021/10/10 18:06

4-2 火中の栗

 昭和三十一年から三十四年の間に三回もの大水害に見舞われ、打撃を被ったのは個々の住民や塗師屋ばかりではなかった。漆器組合もまた同様であった。昭和三十一年の水害で漆器組合は保有していた地の粉や漆液、...

2021/10/10 18:05

4章・漆器組合の理事長に就任 4-1 塗師屋の仲間組織

 輪島塗業界をたばね、漆器産業を振興させるために、輪島の町には漆器商工業協同組合がある。藩政中期ごろから輪島の重要な産業となり、藩政末期から今日まで一貫して輪島の主幹産業として命脈を保ってきた輪島...

2021/10/10 18:04

3-3 能登観光の黎明と水害受難

《克己が宿に帰ろうと、曽々木部落に近い断崖のトンネルにさしかかると、トンネルの闇の向こうから、明るいワンピースの娘が歩いてきた。鮎子であった。烈しい感情が沸き起こった二人は、どちらともなく近づいて...